こんにちは。
「最近、若手が育つスピードが遅くなった気がする」
現場でエンジニアをしていると、そんな感覚を持つことが増えました(おじさんになったことを痛感😅)。
AIが登場する前は、若手はまず試験を任され、次に簡単な製造、そして設計へと、段階を踏みながら先輩の技術を間近で見て学んでいました。ひとつひとつの工程には手間がかかりましたが、その手間こそが、若手にとっての学びの場になっていたのです。
しかし、今は違います。設計も製造も試験も、AIに任せたほうが生産性が高い。そうなると、これらの工程を若手エンジニア自身が手を動かして経験する機会は、自然と失われていきます。
AIが進化すればするほど、若手が現場でスキルアップする機会は減っていく。
これは、AIの性能が上がれば上がるほど深刻になる。皮肉な構造的課題だと私は感じています。
私自身、20年以上のキャリアの中で、下積みの工程を通じて技術の「勘」を身につけてきました。だからこそ、その学びの場が静かに失われつつあることに、強い危機感を感じています。
なぜこうした変化が起きているのか。そして、この状況の中で私たちには何ができるのか。20年以上、現場でエンジニアとして働いてきた経験をもとに、考えていきたいと思います。
従来のOJTモデルはどう機能していたか
従来のOJTは、試験から始まり、段階を踏んで経験を積んでいくモデルでした。
たとえば試験ひとつをとっても、ただ手順どおりに進めるだけではありません。「どうすればバグを引き出せるか」を自分の頭で考え、試験方法を工夫する。そうした試行錯誤の積み重ねが、後の製造や設計の力になっていました。
中でも、レビューは若手にとって最高の学びの場でした。
自分では気づけない部分を、経験を積んだ先輩が指摘してくれる。それも、経験を積んだ人にしか見えない視点からの指摘です。同じような指摘を何度も受けるうちに、「自分に何が足りないのか」が見えてきます。そして、その足りない部分を埋めようと学ぶことで、少しずつ知識が積み上がっていく。このサイクルこそが、従来のOJTを支えていた仕組みでした。
AIが代替しているのは「作業」か「学びの機会」か
企業側から見れば、AIに作業タスクを任せることで生産性が上がり、利益につながります。合理的な判断です。
しかし、AIが肩代わりしているその作業こそ、従来は若手が仕事の進め方やロジックを学ぶ機会だったのです。
これまで若手は、先輩の作業を手伝うことで経験を積んできました。企業は生産性と利益を追求し、若手は現場で手を動かしながら力をつける。この二つは、これまでうまく両立していました。
ところがAIの発展によって、企業の生産性と利益は上がった一方で、若手が先輩の作業を手伝う機会は減っていきました。それどころか、先輩自身が若手に頼らなくなっています。
結果として、若手は技術力を身につける機会を失ったまま、上流工程に関わるようになりました。しかし、若手は、自分がどこまで手を動かせるのか、その判断基準を持てていません。生成AIが書いたコードに問題がないかどうかを見極めることさえ、難しくなってきているのです。
日本の育成文化との相性の悪さ
日本の企業には、新卒一括採用し、OJTで業務を覚えさせるという独特の文化があります。新卒は、実際の業務をこなしながら、必要な知識を少しずつ身につけていく。これまでは、業務を回すために必要なのは業務知識だけで十分でした。
しかし、AIの発展によって状況が変わりました。業務知識だけでは、業務そのものを回すことが難しくなってきたのです。もっと深い、原理原則に近い知識がなければ、AIが出してきた結果を正しく判断できません。つまり若手は、これまでのように「業務の中で覚える」というやり方だけでは、通用しなくなりつつあります。
だからこそ、若手には自ら学ぶ姿勢が求められるようになりました。
ところが、日本の会社員には、そもそもプライベートで学習する習慣があまりありません。総務省の「令和3年社会生活基本調査」(2021年10月実施、2022年8月31日公表)によれば、「学習・自己啓発・訓練」に費やす時間は、1日あたり十数分程度にとどまっています。
海外に目を向けると、大学で学んだ知識をそのまま実務で活かすケースが多く見られます。一方、日本では大学で学んだ内容が、企業の現場でそのまま使えないことが少なくありません。つまり、「大学で基礎を固め、社会人になってからは現場で覚える」という前提そのものが、日本と海外では違うのです。
新卒一括採用とOJTを前提にした日本の育成文化は、AI時代が求める「自ら学び続ける力」とは、根本的に相性が悪いのかもしれません。
中堅エンジニア(3〜5年目)に何ができるか
では、中堅エンジニアには何ができるのでしょうか。
私は、業務を回すことと、若手に自分の姿を見せることだと考えています。
もちろん、入社したばかりの若手には、業務の回し方そのものを教える必要があります。しかし、ある程度業務を回せるようになった若手に対しては、AIの使い方を教えるのではなく、自分のキャリアをどう伸ばしていくかを、背中で語ってもらいたいのです。
つまり、中堅エンジニアに求められるのは、業務外で学んだことを活かしながら業務を回し、空いた時間でさらに学び続ける姿を、若手に見せることです。もちろん、言葉で伝えることも大切です。
そうした姿を見せ続けることで、若手は「自分に足りない知識をどう学べばいいのか」を、自然と学んでいくのだと思います。
まとめ:構造的課題への向き合い方
AIが進化すればするほど、若手が現場でスキルアップする機会は減っていく。これは、AIの性能が上がるほど深刻になる、皮肉な構造的課題です。
これまで見てきたように、原因はひとつではありません。AIが学びの機会を肩代わりしていること、日本の新卒一括採用とOJTという育成文化がAI時代と相性が悪いこと。この二つが重なり合って、事態をより深刻にしています。
だからこそ、この課題に特効薬はありません。制度や仕組みだけで解決できる問題ではなく、現場の一人ひとりが日々の振る舞いで少しずつ埋めていくしかないものだと感じています。
その意味で、先に書いたように、中堅エンジニアが自分の学び続ける姿を若手に見せることは、小さな一歩ではありますが、確実に効くと思います。若手は、先輩の学び方を見て、自分に足りない知識をどう埋めればいいのかを学んでいくからです。

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